薄毛になりやすい遺伝子を持っていると知った上で、多くの人が抱く切実な疑問。それは、「治療によって、一体どこまでの改善が期待できるのか」という、ゴールに関する問題です。遺伝という強力なハンディキャップを背負いながら、私たちはどこまで髪を取り戻すことができるのでしょうか。その答えは、いくつかの要因によって左右されますが、適切な治療を早期に開始すれば、多くの人が「現状に満足できるレベル」までの改善を十分に期待できる、というのが現代のAGA治療における一つの結論です。まず、改善の度合いを左右する最も大きな要因は、「治療を開始した時点での薄毛の進行度」です。遺伝的素因が強くても、抜け毛が気になり始めた直後などの、まだ毛母細胞が多く生き残っている初期段階で治療を開始すれば、失われた髪の多くを取り戻し、20代の頃に近い状態まで回復することも夢ではありません。しかし、進行が進み、産毛すら生えていない領域が広がっている場合、その部分の毛母細胞はすでに活動を停止、あるいは死滅している可能性が高く、薬の力だけで元の状態に戻すのは困難になります。この場合、治療の主な目的は、「これ以上の進行を食い止めること」と、「残っている細い毛を太く育て、全体のボリューム感を出すこと」になります。次に、「どの治療法を選択するか」も、改善のレベルを大きく左右します。フィナステリドやデュタステリドといった内服薬で抜け毛を抑えながら、ミノキシジルで発毛を促進する、という標準的な治療法でも、多くの人は満足のいく結果を得られます。しかし、より劇的な変化を望む場合や、薬だけでは限界がある場合には、「自毛植毛」という選択肢があります。これは、遺伝の影響を受けない後頭部の毛根を、生え際などの薄くなった部分に移植する外科手術です。これにより、薬では生やすことができなかった部分にも、確実に髪を取り戻すことが可能になります。遺伝は、確かに薄毛になりやすいという「体質」を決定します。しかし、その体質とどう付き合い、どこまで改善を目指すかは、現代の医療技術と、あなた自身の決断に委ねられているのです。