僕の母方の祖父は、僕が物心ついた頃には、すでに見事なまでに髪がなかった。そして、父もまた、四十代を過ぎたあたりから、徐々に生え際が後退していった。「これは、もう運命なんだ」。僕は二十代前半から、自分の髪の未来に絶望していた。案の定、二十五歳を過ぎた頃から、僕のM字はゆっくりと、しかし確実に深くなっていった。インターネットで情報を集めれば集めるほど、「薄毛は遺伝」という冷たい現実が、僕に重くのしかかった。どうせ何をしても無駄だ。遺伝からは逃れられない。そう思い込んだ僕は、何の対策もすることなく、ただただ進行していく薄毛を、鏡の前でため息混じりに眺めるだけの日々を送っていた。そんな僕の考えを変えたのは、ある日、偶然再会した高校時代の友人だった。彼もまた、昔から薄毛を気にしており、僕と同じように「遺伝だから仕方ない」と諦めていたはずだった。しかし、久しぶりに会った彼の髪は、明らかに以前よりもボリュームが増しているように見えた。「何かやってるの?」。僕が恐る恐る尋ねると、彼は少し照れながら「専門のクリニックに通ってるんだよ」と教えてくれた。そして、こう続けた。「俺も最初は遺伝だからって諦めてた。でも、医師に言われたんだ。『遺伝が原因だからこそ、治療薬が効くんですよ』って」。その言葉は、僕にとって雷に打たれたような衝撃だった。遺伝は、諦めるための理由ではなく、治療を始めるべき理由だったのだ。僕は、自分の無知と、向き合うことから逃げていただけの臆病さを、心から恥じた。その日の夜、僕は夢中でAGAクリニックについて調べ、そして、生まれて初めて、自分の未来を変えるための予約ボタンを押した。治療を始めて一年。僕の髪は、完全ではないが、確実に戻ってきた。しかし、それ以上に大きな変化は、僕の心の中にあった。遺伝という宿命に、ただ怯えていた自分はもういない。自分の体質を理解し、科学の力でそれに立ち向かう。その前向きな姿勢こそが、僕が手に入れた、何よりの財産だった。